先日、後輩と出張に行った際の出来事である。
先方との待ち合わせ時間よりも、早く着いてしまったので、近くのカフェに入った。

何となしに後輩が言った。

「◯✖ゲームしましょう。」

後輩は紙ナプキンにペンで、縦に3本、横に3本の線を引いた。

「先に4つ繋げたら勝ちで。自分が先攻で。」

そのまま、後輩が◯を書いた。

「これ後攻、不利じゃね?」

適当に右隣に✖️を書いた。

(まあ、暇つぶしだしいいか)

後輩は、先ほど書いた◯の下に◯を書いた。
右上角に×を書く。
後輩は右下角に◯を書いた。

「はい、次先輩ですよ。」

ペンを渡してくる後輩。
ペンを受け取り、二つ繋がっている✖の左隣りに✖を書き、リーチをかける。

「いい手ですね。」

後輩は左上角に◯を書き、リーチを潰した上で、逆にリーチをかけてきた。

「やるじゃん。」

意外と面白くなってきた。

そこから進み、お互いに勝ちは無い盤面になった。

「引き分けだね。そろそろ行きますか。」

待ち合わせ時間まで、いい感じの時間になっていた。

「そうですね。じゃあ、自分の勝ちってことで。」

そう言う後輩は嬉々として、マス外に◯を書いた。

「え、ずるじゃん。」

私が非難の声をあげると、後輩はきょとんとした様子でこう言った。

「自分は◯✖️ゲームをしましょう、と言っただけで、誰も『4✖️4のマス』なんて言ってませんよ。」

確かにその通りだ。後輩の言うことに一理ある。
だが、「普通」に考えたら、マス内に書くのが「ルール」のはずだ。

「ルールとか普通とか、常識に捉われちゃ駄目ですよ。先輩。」

後輩は得意げにそう言うと、紙ナプキンを丸めてゴミ箱に捨てた。

「なるほどね。いい勉強になったわ。」

私は素直に感心し、勉強代も兼ねて後輩の分もお会計を済まし、待ち合わせに向かった。


あの時は素直に感心したが、思い返してみると、これは誰かの受け売りではないだろうか。
まず、いきなり◯✖ゲームを提案してくるのがおかしい。

多分、後輩も同じようなことをされて、誰かに披露したくなったのだろう。
そして、後輩に披露した人もまた、誰かの受け売りなのかもしれない。
こうやって、「伝言ゲーム」のように伝わっていくのだろう。
(現に私もこうして、ブログのネタに使っている)

今の世の中、自らのカリスマ性を魅せるために、「逆転の発想」や「常識を疑え」などのキャッチフレーズを用い、斬新なアイデアマンを驕る人が多くなってきた。

ただ、騙されてはいけない。
きっとこの人たちも誰かの受け売りであり、所詮「伝言ゲーム」の参加者なのだ。