インタビューアーが「成功の秘訣は何ですか?」と質問をする。
困ったような笑みを浮かべ、成功者は答える。

「ただ、運が良かっただけですね」

よく見る光景である。


視聴者は、彼ら彼女ら成功者のように、何かで成功したい。

「チヤホヤされたい!」
「お金が欲しい!」
「いじめてた奴らを見返したい!」

理由はともあれ、成功したいのだ。

「成功するために何をすればよいのか?」

これが視聴者が一番聞きたいことであり、インタビューアーにとってマストな質問だ。
その答えが、「運が良かった」だけでは、正直、拍子抜けだろう。

だが、インタビューアーも負けてはない。
矢継ぎ早に質問をぶつけるだろう。

「やはり、恩師である〇〇のおかげでしょうか?」
「過去の〇〇の経験のおかげで、今があるというのもあるのでしょうか?」
「そうは言っても、実は秘訣があるのではないでしょうか?」

どうにかして、具体的な何かを聞き出そうとする。
「運」だけでは、視聴者が納得しないことは明白だからだ。

やはり、若干困り気味に成功者は答える。

「うーん、そうですね。やっぱり運が良かっただけだと思いますね」


このやり取りを見る度に、視聴者は「運だけで成功できるわけないだろう」と落胆を覚えるだろう。
聞きたい答えはそれではないのだ。

もっと具体的に、「できれば手軽で簡単な」そんな秘訣が知りたいのである。

では、さっきとは逆に、成功者がこのように答えたらどうだろうか?

「成功の秘訣ですか?それは毎日練習を最低8時間以上はすることです。また、物心ついた時から、〇〇で成功することだけを考えて生活してきました。小さい頃から時間をかけて、優秀な指導者の下で、毎日コツコツと積み重ねることです。それ以外ありません」

どう思うだろうか?
今すぐ成功したい人にとって、これも求めている答えではないだろう。

幼い頃からの積み重ねなんてものは当然ないし、毎日できるほど根気強くもないし、指導者なんているはずもない。

とにかく何でもいいから、成功したいのである。
現状からの逃避として、何かで成功して今の生活から抜け出せればいいのだ。

また、そんなことを言われたら、自分を否定されているようで、成功者のことを嫌いになってしまうかもしれない。

ただ、大多数の人はそうであるように思える。
実際、私もその一人である。

そして、そのことを成功者もまた知っている。

だからこそ、「運」などと曖昧な言葉でお茶を濁すのだ。
そうすれば、視聴者は傷つかないし、自分の好感度も下がることはない。
いわば、定型句として使われているのだ。

しかしながら、「運」が成功の秘訣というのは、成功者にとって、あながち間違いではないのだろう。
毎日コツコツ積み重ね、努力するのは当然のことであり、あとは「運」さえあれば、日の目を見ることができるかもしれない。
あるかも分からない「運」を掴むため、来るかも分からない好機を待ち続ける。

その姿勢が成功に繋がったことを、一番実感しているのは成功者なのだから。